Izuchi HospitalObstetrics & Gynecology

Painless delivery無痛分娩の情報公開

厚生労働省の提言を受け、当院の無痛分娩の情報公開をいたします。
2017年無痛分娩に関連した医療事故の報道が相次ぎ、無痛分娩の安全性に関し公的機関やいくつかの学会で調査がなされました。それらの分析によると「無痛分娩事故」とは、「麻酔の事故」(=麻酔薬を誤った場所に注入してしまったなど)と、「分娩の事故」(=吸引分娩のため産道に裂傷が入ったなど)に分けられます。麻酔事故は盲腸の手術でも発生しますし、分娩事故は無痛分娩でなくても発生します。無痛分娩事故という特殊なものはありません。麻酔と分娩、その2つの事故の予防や合併症の早期発見と適切な対応が求められています。

無痛分娩事故
麻酔事故
分娩事故

無痛分娩の診療実績

当院では25年前(1999年)より硬膜外麻酔による無痛分娩を行っており、積算すると2023年末までに7,683人、近年では当院で分娩される約50%の方が硬膜外麻酔下に出産されています。過去25年間の無痛分娩の分娩数です。

当院の無痛分娩数の推移

(年)
(人)
2023年
595人
2022年
517人
2021年
436人
2020年
422人
2019年
401人
2018年
349人
2017年
385人
2016年
345人
2015年
345人
2014年
329人
2013年
334人
2012年
342人
2011年
290人
2010年
291人
2009年
314人
2008年
314人
2007年
292人
2006年
262人
2005年
252人
2004年
243人
2003年
183人
2002年
134人
2001年
124人
2000年
120人
1999年
64人

当院で行っている無痛分娩

硬膜外麻酔を用いた無痛分娩には、あらかじめ日程を決めて硬膜外麻酔下に陣痛促進剤を投与する方法(計画無痛分娩)と、自然陣痛が来てから硬膜外麻酔を開始する方法(自然無痛分娩)があります。当院は25年間一貫して、通年24時間対応で自然陣痛が来てから硬膜外麻酔を開始する方針としており、無痛にするために計画分娩を行ったことはありません。陣痛誘発は、自然陣痛に比べると陣痛促進剤の使用などのリスクが加算されると考えているためです。陣痛誘発は医学的理由(前期破水や羊水過少など)のみで行っています。

無痛分娩
自然無痛分娩自然分娩時に硬膜外麻酔をかける
計画無痛分娩陣痛を誘発して硬膜外麻酔をかける

無痛分娩の担当医師

当院では4名の医師が、硬膜外麻酔に直接携わっており、24時間必ず1名以上が病院内に常駐しています(常勤=昼夜対応する3名と、非常勤=夜間当直帯のみ対応する1名)。
また、昼の外来診療が行われている時間帯では、分娩担当医は別にしており、原則的に外来診療をしながら無痛分娩を担当することはありません。

〈常勤医師〉

井槌 邦雄
日本産科婦人科学会専門医・母体保護法指定医・J-CIMELS・NCPR
日本産科婦人科学会・日本産科麻酔学会・J-MELS硬膜外鎮痛急変対応コース
池田 真一
日本産科婦人科学会専門医・母体保護法指定医・J-CIMELS・NCPR・ピーシーキューブ・
麻酔科標榜医・日本産科婦人科学会・日本産科麻酔学会
小濱 大嗣
日本産科婦人科学会専門医・日本産科婦人科学会指導医・母体保護法指定医・J-CIMELS・
NCPR・J-MELS硬膜外鎮痛急変対応コース・日本産科婦人科学会・日本周産期新生児学会・
日本産科麻酔学会

〈非常勤医師〉

井槌 大介
福岡大学産婦人科講師
福岡大学産婦人科所属
日本産科婦人科学会専門医・周産期専門医
NCPR・麻酔科標榜医
日本産科婦人科学会・日本周産期新生児学会
日本産科麻酔学会

無痛分娩教室

当院で無痛分娩を受けていただくためには、インフォームド・コンセント(説明の上での同意)のため、まず定期的に開催している(月に1回もしくは2回)「無痛分娩教室」(1回2時間)を受講していただくことが必要です。ご質問は歓迎します。
受講の後、ご家族とご相談されて無痛分娩を希望されるときは、当院よりお渡しする同意書にご署名の上、ご提出いただき、無痛分娩のご予約としております。
また、安全性の確保のため、当院での無痛分娩の数を制限させていただいており、事前にご予約いただいた方に限って実施しています。
※コロナウイルス感染症流行中は、実際の受講に代えて「無痛分娩教室DVD」の視聴をお願いしています。

  1. 無痛教室の申し込み
  2. 同意書の提出
  3. 無痛分娩のご予約

無痛分娩の成績

公表されている大学病院や周産期センターの無痛分娩の成績では、30~50%の方が途中から帝王切開または器械分娩(=吸引器や鉗子といった器械を使って牽引する分娩)になっています。これは米国の成績とほとんど一緒です。このことはアメリカでは一般に知られていますが、わが国では無痛分娩する妊婦さまのほとんどが、これほどの高い数字になるとは知らないのが現状です。この「不都合な真実」が日本で無痛分娩が広がらない隠れた大きな理由です(無痛分娩に否定的な医療関係者は、産婦の苦痛に理解がないのではなく、この事実を知っているからです)。
しかし日本の産科には「できるだけ帝王切開や器械分娩をしない」という、世界的にはすでに絶滅した伝統が残っていたため、主として開業医たち(日本で初めて硬膜外麻酔下の無痛分娩を行った田中康弘先生など)が長年かけて「日本の無痛分娩」を作ってきました(この意味では無痛分娩の先進国はアメリカではなく日本です)。
当院で2012年から2023年までの12年間に、4,800人の方が硬膜外麻酔を用いた無痛分娩をされました。このうち無痛分娩の途中で何らかの理由で帝王切開になった方が33人(0.68%)、また、器械分娩となった方が62名(1.29%)です。これは上記の数字より10分の1以下の低い確率になります。
しかし当院では無痛ではない方の器械分娩率は0.5%を上回る年はなく2023年は一例もありませんでした。無痛分娩の器械分娩率の1.29%はそれと比べるとまだ改善の余地があり、さらに減少させるよう研鑽を重ねております。2023年の無痛分娩での器械分娩率は595人中5人(0.84%)でした。
なお、当院の2023年の全分娩数は977件、うち帝王切開は64件、帝王切開率は6.5%です。(わが国の全ての産科病医院の平均は21.6%です。)
この64件のうち49件が骨盤位や前回帝王切開などのあらかじめ予定して行った帝王切開で、胎盤早期剥離などの緊急帝王切開は15例(1.5%)です。
硬膜外麻酔下での分娩は、分娩の苦痛を軽減するためには優れた方法ですが、すべての方におすすめすべきとは考えておりません。しかし分娩の選択肢の一つとお示しする以上は、可能な限り精度が高く安全性が高いものにすべく努力しております。
また、帝王切開分娩や器械分娩に至った方には、妊娠中の体重増加過多が多いため、無痛分娩を希望される方には帝王切開率や器械分娩率を抑えるためにも、栄養士による食事指導を受けていただいております。帝王切開や吸引分娩は母体のみならず赤ちゃんにとっても大きなリスクだからです。無痛分娩によって余計なリスクを赤ちゃんに背負わせないために、しっかりとした体重の自己管理をお願いしています。

年度無痛分娩(人)無痛分娩からの
帝王切開(人)
無痛分娩からの
器械分娩(人)
2023年59525
2022年51732
2021年43653
2020年42256
2019年40126
2018年34923
2017年38524
2016年34516
2015年34514
2014年329310
2013年33446
2012年34237
合計4,8003362
0.68%1.29%

無痛分娩の合併症について

「無痛分娩事故」として報道されたものの多くは、「くも膜下注入(全脊椎麻酔)」と呼ばれる合併症です。硬膜外麻酔の大きな合併症はこの「くも膜下注入」と「血管内注入」です。これらの予防のために、硬膜外麻酔に用いる器材の工夫や、チェックの手順の遵守の徹底、スタッフのシミュレーショントレーニングを行っています。
25年間、7,683人の硬膜外麻酔分娩で、今までのところ、これらの合併症は一例も起きていません。ただし「硬膜穿刺後頭痛」と言われる合併症は、今までに数人(0.1%以下)発生しており、平均よりは低く抑えているのですが、完全に防ぐには至っておりません。この頭痛は約1週間で全員が軽快されています。また、皮膚の痒み、吐き気、発熱、(無痛分娩でなくても発生することあり)などが起きることもあり、いずれも薬剤で対応しております。

  • くも膜下注入
  • 血管内注入
  • 硬膜穿刺後頭痛
  • 痒み、吐き気、発熱

無痛分娩の費用

無痛分娩には健康保険が適用されません。このため自費で無痛分娩手技料100,000円をいただいています。ただし、入院後すぐに硬膜外麻酔を開始したが十分に効果がでる前に分娩に至ったなどの場合、料金はいただいておりません。